腎不全

腎不全とは?

腎不全とは、糸球体濾過量(GFR)の低下を中心とした腎機能障害がある状態をいいます。具体的には正常な時と比較して腎臓の働きが30%以下になった時を腎不全といいます。

腎不全状態出現の経過により、急性腎不全(ARF)と慢性腎不全(CRF)に大別されます。

近年、慢性腎不全に至る前の、より早期の段階から腎障害を疾患としてとらえるために慢性腎臓病(CKD)という概念が広く知られるようになりました。同様に、急性腎不全でも急性腎障害(AKI)という概念が登場しています。急性腎不全は治療により改善する可能性がありますが、慢性腎不全の場合は治療による改善が難しいのが現状です。

急性腎不全(ARF)

【原因・誘因】

・腎前性:循環血液量の減少、心拍出力の低下

・腎性  :尿細管間質の障害、糸球体の障害、血管の障害

・腎後性:両側尿管の閉塞、膀胱・尿道の閉塞

【病態生理】

・数時間~数週間単位の急激な腎機能低下により、体液の恒常性維持機構が破綻

【症状・初見】

・乏尿(約50%)、全身倦怠感、食思不振、悪心・嘔吐、中枢神経症状などの尿毒症症状

【検査・診断】

・血液検査で、血清Cr↑、BUN↑、K+↑、HCO3-↓、eGFR↓を認める。

・腹部超音波検査で、腎臓のサイズは正常~やや腫大

【治療・管理】

・原因疾患の治療

・腎不全の管理として、栄養管理、水や電解質管理を中心とした保存的治療、必要に応じて血液浄化療法

【経過・予後】

・原因除去により腎機能が回復する可能性は高いが、重症患者での生存率は低い

慢性腎臓病(CKD)/ 慢性腎不全(CRF)

【原因・誘因】

・既往歴:急性腎不全などの腎疾患、糖尿病、高血圧、尿路結石、膠原病など

・家族歴:多発性嚢胞腎、アルポート症候群などの遺伝性の腎疾患

・健診歴:尿蛋白、血尿、腎機能障害、腎形態異常など

・投薬歴:NSAIDs、抗菌薬などの腎毒性薬剤

・その他:低出生体重児、高齢、喫煙、肥満、脂質異常症、高尿酸血症など

【病態生理】

・上記のような危険因子や原因疾患を背景に、数ヵ月~数年で腎障害が徐々に進行

【症状・初見】

・高血圧、浮腫、貧血、心不全兆候(心雑音、肺水腫、胸水)など

【検査・診断】

・下記①または②のいずれかあるいは両方が3ヶ月以上持続する場合、慢性腎臓病(CKD)と診断する。

 ①尿所見で、尿蛋白、または尿蛋白+血尿

   画像診断で、腎形態学的な異常(腎臓の萎縮、腎実質のエコーレベルの増強)

   血液検査で、血清Cr↑、BUN↑、K+↑、Ca2+↓、P↑、貧血

   腎生検による病理所見で、腎組織障害所見、などの腎障害の存在を確認

 ②糸球体濾過量(GFR)< 60 mL/分/1.73m2を確認

【治療・管理】

・生活習慣の改善:肥満の是正、禁煙、適度な運動

・食事療法:食塩摂取制限、蛋白制限、K摂取制限など

・降圧療法:ACE阻害剤、ARB、Ca拮抗薬、利尿薬など

・CKDの原因疾患(糖尿病など)に対する治療

・合併症(脂質異常症、高尿酸血症、腎性貧血、骨ミネラル代謝異常など)に対する治療

・尿毒症症状を認めれば、腎代替療法(透析療法、腎移植)を考慮

【経過・予後】

・ほぼ不可逆的な腎障害なので、悪化を防ぐことが治療の目的となる。

従来、「腎不全」という状態に明確な定義はなく、一般的には血清Cr ≧ 2.0mg/dL程度の腎機能低下とされていました。しかし近年では、より早期の腎障害を含めた慢性腎臓病(CKD)という概念が確立され、従来の「慢性腎不全(CRF)」の概念もその中に含まれるようになりました。

腎臓病として捉えられていなかったハイリスク群を含む早期のステージ群に対して治療・介入を行うことで、より効果的に腎障害の進行を防ぐことが目的です。

CKDは、その発症や進行に多くの危険因子、原因疾患が存在します。高血圧、糖尿病など可逆的な危険因子と、年齢・性別など不可逆的な危険因子があります。

CKDは原因疾患によらず、一定の腎障害がおきると、共通のメカニズムによって末期腎不全(ESKD)まで進行するため、ESKDは様々な疾患の「なれの果て」の姿といえます。

腎不全の治療薬

腎臓の機能を直接改善する薬は、ほとんどないと言われています。

原因によらず、CKDや慢性腎不全の悪化に尿蛋白の増加や高血圧が深く関わるため、これらを是正する薬が治療の中心となります。また、合併症への対応が必要であり、使用する治療薬は多岐にわたります。これらの治療薬のほか、原因疾患が明らかな場合はその治療を並行して行っていきます。

腎不全・腎障害のバイオマーカー

 

項目名 材 料  測 定 意 義
 KIM-1  尿 KIM-1は新しい急性腎障害のバイオマーカーの1つ。

薬剤の安全性評価マーカーとして用いることもできる。近位尿細管において発現し、酵素の働きで細胞膜から切断され尿中に排泄される。

 NGAL  尿 NGALはリポカンファミリーに属する蛋白質で、主に活性化した好中球から分泌される。腎臓に障害を受けると尿中のNGAL濃度が顕著に上昇することから、近年、急性腎不全など各種腎疾患の早期診断マーカーとして注目を集めている。
 Intact FGF-23 血清  FGF-23はFGFファミリーに属し、リン代謝を調節する新規のホルモン様分子として見いだされ、生体内ではN末端24残基のシグナルペプチドが脱落した分泌蛋白質として存在する。FGF-23の異常が関係する疾患は、腫瘍性骨軟化症や低リン酸血症、クル病、骨軟化症がある。また、腎不全において、血中のFGF-23濃度が上昇することが確認されている。
 C末端 FGF-23 血清 
 エンドセリン-1  尿 エンドセリン-1は白血球、平滑筋細胞、心筋細胞などで発現しており、内皮細胞や種々のホルモン及び炎症性サイトカインによって誘導される。腫瘍細胞の増殖や移動を制御し、癌の進行に作用すると考えられている。また、くも膜下出血に関連する敗血症性出血、アンテローム性動脈硬化、心不全、腎不全、肺高血圧、及び脳血管における諸病変の推定に役立つとされている。
 FGF-2  尿 FGF-2はbFGFとも呼ばれ、神経組織、下垂体、副腎皮質、胎盤などから単離される。神経分化、生存、再生を誘導するとともに、胚発生や分化を調節することが知られている。大腸癌、胃癌、乳癌、肺癌、甲状腺癌などの癌患者でFGF-2濃度が上昇していることが多数報告されており、診断指標の可能性や予後との相関が示唆される。
 コルチゾール/

6β-OHコルチゾール

 尿 コルチゾールは副腎皮質ホルモンである糖質コルチコイドであり、糖、脂肪、蛋白質の代謝に関与する。6β-OHコルチゾールは、コルチゾールがシトクロムP450 3A(CYP3A)により代謝されて生じる。コルチゾール及び6βOHコルチゾールともに尿中へと排泄される。6β-OHコルチゾールの尿排泄量はCYP3A活性と相関するため、その評価法として6β-OHコルチゾール/コルチゾール比が用いられている。
 L-FABP  尿 L-FABPはヒト腎臓の近位尿細管細胞の細胞質に局在する脂肪酸結合蛋白質である。L-FABPは、組織障害が進行する前の尿細管の虚血(血流不全)や尿細管への酸化ストレスにより尿中に排泄される。そのため尿細管機能障害を伴う腎疾患の早期診断に有用とされる。

トピック

「AIを使った急性腎不全の事前予測」             2019年7月 Nature 572, 116-119

 

人工知能(AI)システムを使うことで、急性腎不全の発症予測が、実際の発症より最長48時間も前に可能となることがわかりました。本論文に掲載されている方法は、健康状態が悪化するリスクのある者を早期治療が可能な時間枠内で特定するうえで役立つ可能性があります。

病院内で患者が死亡した症例の11%は、健康状態が悪化する患者の特定と迅速な治療ができなかったことが原因と推測されています。今回、著者等の研究グループは、この問題に対処するため、深層学習を使って患者のリスク因子を評価する方法を開発しました。そして、この方法は、急性腎障害の予測に適用可能なことが実証されました。

このAIシステムの訓練には、米国の退役軍人医療制度の下で治療を受けた70万人以上の患者データが用いられました。このAIシステムを用いると、急性腎損傷の症状発現の55.8%が、標準的な臨床モニタリング法で明らかになる時点より最長48時間前に正確に予測されました。また、このAIシステムは、透析治療を必要とする重症患者の最大90.2%を特定することにも成功しました。この早期警報により、回復不能な腎損傷が起こる前に治療をおこなうことが可能となります。

ただし、著者らは、今回の研究にいくつかの限界があることも指摘しています。例えば、陽性判定と偽陽性判定の比率が1:2でした。ただし、偽陽性判定になった症例の多くで患者がすでに慢性腎障害を発症していました。さらに、AIシステムのトレーニングに用いられたデータのうち女性患者のデータはわずか6.38%であったため、この方法をより広範な集団にどの程度適用できるかは不明です。それでも、今回の結果は、AIシステムによって入院患者に生じるいくつかの有害事象を予測し、予防する可能性を生み出しています。

腎不全関連バイオマーカー受託サービス

KPSLでは以下のような腎不全関連マーカーの測定受託サービスを提供しています。

また、記載のないマーカーについても要相談で測定系の立ち上げを行いますので、気軽にお問合せください。

  

・KIM-1測定

 血清/血漿/尿中のヒトKIM-1をELISA法で測定します。

 腎臓のダメージや近位尿細管損傷のバイオマーカーとして知られています。肝臓がんや急性尿細管壊死の患者では、 血清や尿でKIM-1の上昇が見られます。

 

・sCD26/DPP4分子 and 活性測定

 血清中のDPP4分子をELISA法で、ヘパリンNa血漿中のDPP4活性を蛍光法で測定します。

 インクレチンを分解する酵素で、細胞膜上や可溶性タンパクとして血液中にも存在しています。糖尿病関連のバイオマーカーです。

 

・FGF-23測定

 血清中のヒトFGF-23(intact)をELISA法で測定します。

 腎不全において血中のFGF-23濃度が上昇することが確認されています。

 

・nCounter遺伝子発現解析(約~800種類のmRNA測定)

 1分子カウントによる網羅的な遺伝子発現精密分析です!

 目的に合わせた遺伝子がセットになったパネルを選択し測定します。

 ヒトの臓器移植パネル: nCounter®Human Organ Transplant Panel

  1)移植組織に対する免疫応答の研究

  2)臓器拒絶反応と組織損傷のバイオマーカーの探索

 (nCounterの詳細についてはこちら