測定対象物質
酢酸、プロピオン酸、酪酸、3–ヒドロキシ酪酸
概要
短鎖脂肪酸(short-chain fatty acids:SCFA)は、主に腸内細菌による食物繊維の発酵分解から生成され、腸内環境の状態を把握する指標になります。生体内の短鎖脂肪酸は生命活動のエネルギー源だけではなく、免疫、血圧、グルコースや脂質の代謝に関する調節因子としても知られています。短鎖脂肪酸は、クローン病および潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患や、アレルギー性疾患とも関連が深く、これら疾患分野の研究にも有用です。
3-ヒドロキシ酪酸はアセチルCoAから生成されるケトン体であり、脂肪酸β酸化の指標になります。糖尿病患者では、脂肪酸β酸化亢進により血中3-ヒドロキシ酪酸が増加し、ケトアシドーシスを併発することが報告されています。
疾患との関連
<短鎖脂肪酸とアレルギー>
近年、食物アレルギーなどのアレルギー性疾患の患者数は増加しています。短鎖脂肪酸はアレルギーの発症や進展に影響を与えることが明らかにされています。
アレルギーの原因物質であるアレルゲンにより、Th2細胞が活性化し、IgE抗体の産生を促します。マスト細胞に結合したIgE抗体とアレルゲンの反応により、ヒスタミンなどの化学物質を放出し、蕁麻疹のようなアレルギー反応が引き起こされます。酢酸、プロピオン酸、酪酸のような短鎖脂肪酸は、制御性T細胞(Treg)活性および抗炎症性サイトカインIL-10を増加させ、アレルギー反応を抑制することが報告されています。このように、短鎖脂肪酸分析は、アレルギー疾患分野の研究にも有用です。
<短鎖脂肪酸と2型糖尿病>
2型糖尿病は、インスリン抵抗性、高脂肪食および肥満などが原因で発症します。近年は、これら要因に加え、腸内細菌およびその代謝産物である短鎖脂肪酸が関与しているといわれています。
2型糖尿病患者の便中短鎖脂肪酸濃度は、健常人と比較し低下していると報告されています。また、短鎖脂肪酸の基質である食物繊維は、2型糖尿病の改善に有効であることも示されています。
短鎖脂肪酸は、受容体であるGPR41およびGPR43に結合し、エネルギー代謝促進および食欲抑制作用を持つペプチドYY(PYY)や、インスリン分泌を促進するグルカゴン様ペプチド(Glucagon-like peptide-1:GLP-1)の発現を増加させます。短鎖脂肪酸分析は、2型糖尿病やその原因である肥満等の研究分野にも利用できます。
参考文献
1) Z Zhu et al.(2019) Short-chain fatty acids as a target for prevention against food allergy by regulatory T cells. An open access journal of gastroenterology and hepatology ,3 ,190–195
2) 1.肥満・糖尿病の病態と腸内細菌 3)短鎖脂肪酸を介した宿主のエネルギー・糖代謝調節
3) 糖尿病診療ガイドライン2019
原理
短鎖脂肪酸は、2-ニトロフェニルヒドラジン(2-NPH) 誘導体化後、質量分析(LC-MS/MS) による定量分析を行っています。LCで分離された成分は、質量分析装置に入りイオン化されます。初めに目的のプレカーサイオンを選択し、続くコリジョンセルで不活性化ガスと衝突させ断片化します。さらに、プロダクトイオンを選択することにより、高選択性・高感度の定量分析が可能になります。このように、LC分離、分子量分離、部分構造分離の3つのフィルターにより、高い特異度(目的の分子だけを正確に測定する)で分析しています。
測定機器・施設
測定機器:トリプルQ型質量分析装置 8050(島津製作所)
実施施設:株式会社LSIメディエンスにて実施します。
バリデーション結果
定量範囲
<血漿・血清>
・酢酸:0.400~100 μg/mL
・プロピオン酸:0.0200~5.00 μg/mL
・酪酸:0.00800~2.00 μg/mL
・3-ヒドロキシ酪酸:0.120~30.0 μg/mL
<糞便>
・酢酸:26.7~13300 μg/g
・プロピオン酸:4.00~2000 μg/g
・酪酸:3.33~167 μg/g
・3-ヒドロキシ酪酸:1.33~667 μg/g
測定サンプル
・血清、血漿
・便(腸内容物)
※ヒト・動物ともに可能です。
※最低検体数は30検体です。
※そのほかのサンプルについてはお問い合わせください。
サンプル調製
<血清・血漿>
採血管(血漿):EDTA-Na, K およびヘパリン血漿(それ以外はお問い合わせください)
処理 :採血後すみやかに攪拌し、2000~3000 rpm,4℃,10~20 min遠心します。
上清をマイクロチューブ(エッペンチューブ)に移し、速やかにドライアイス、または-80℃フリーザーにて凍結します。
マイクロチューブには略号、または番号を記入ください。
必要量: 300 µL以上
保存 : -80℃
<便(腸内容物)>
処理 :試料採取後、マイクロチューブに移し、速やかにドライアイス、または-80℃フリーザーにて凍結します。
マイクロチューブには略号、または番号を記入ください。
必要量: 200 mg以上
保存 : -80℃
納期
検体受領より1か月程度(サンプル数・材料などにより異なります。詳細はお問い合わせください。)
納品物
電子データ(Excel)を提出いたします。
定量値のみの報告となります。
別途報告書が必要な場合は、お問い合わせください。