動脈硬化性疾患

動脈硬化性疾患とは?

動脈硬化性疾患とは、動脈硬化により引き起こされる様々な病態の総称のことで、主に虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)、脳血管障害(脳卒中、脳梗塞、脳血栓など)、大動脈瘤などが挙げられます。

動脈硬化は、動脈壁への代謝産物の病的沈着などにより壁細胞の増殖、再構築などをきたし、動脈壁が肥厚・硬化した状態を言います。

これまでの多くの疫学的エビデンスから、動脈硬化の危険因子として高血圧、脂質異常症、喫煙、肥満、糖尿病が挙げられています。

動脈硬化の分類

動脈硬化は病理学的には3種に分類されています。なかでも粥状硬化(アテローム性動脈硬化)が最も多く、虚血性心疾患など致死的な疾患に繋がりかねないため、臨床上重要とされています。

動脈硬化(アテローム性動脈硬化)のメカニズム

動脈硬化のうち最も多いアテローム性動脈硬化のメカニズムについて挙げてみます。

血管内膜に脂質や平滑筋細胞、細胞外基質などの沈着物の病的集積が起き、粥状の隆起性病変を形成する反応を言います。徐々に、あるいはときに急速に進行し、プラークの肥厚による血管内腔の狭窄や、その破綻に続き血栓形成による狭窄・塞栓をきたします。

 

① 様々な刺激により内皮が傷害され、そこに血中のLDL(悪玉コレステロール)が侵入する。内膜内では酸化を受けやすく、酸化LDLとなる。

② 酸化LDLは内皮細胞を活性化し、白血球接着分子や単球遊走刺激因子を産生させる。これにより単球・Tリンパ球が障害部位に集まる。

③ 単球・Tリンパ球の接着・侵入が起こり、単球は内膜に侵入するとマクロファージに分化する。

④ マクロファージはスカベンジャー受容体を介して酸化LDLを大量に取り込み、脂質を蓄積した泡沫細胞となる。

⑤ 泡沫細胞が集まることで、内膜にコレステロール結晶など脂肪沈着による病変(脂肪線条)を形成する。

⑥ 活性化された内皮細胞や泡沫細胞が様々なサイトカイン、遊走因子、増殖因子を産生する。これが平滑筋細胞の内膜への遊走を促進する。

⑦ 内膜に侵入した平滑筋細胞は増殖し、またコラーゲンなどの細胞外基質を分泌するため、プラークは肥厚する。

⑧ 平滑筋細胞の増殖やコラーゲンの蓄積などによりプラークは線維性被膜で覆われる。内部では泡沫細胞や平滑筋細胞の一部が死滅し、脂質に富んだプラークの中心(脂質コア)が形成される。

動脈硬化性疾患の治療薬

動脈硬化の治療として薬物療法が行われるのは、原則として、運動や食事などの生活習慣の改善を十分に行ってもLDLコレステロールの値などが改善しない場合です。危険因子である脂質異常症の治療薬が主に使用されます。作用機序によって、スタチン系、フィブラート系、小腸トランスポーター阻害薬、陰イオン交換樹脂などに分けることができます。

<スタチン系>

HMG-CoA還元酵素を阻害し、肝臓でのコレステロール合成を抑えることで、LDLコ レステロールを低下させる。

<フィブラート系>

核内受容体のPPARαを活性化し、LPLを活性化させることで、TGが分解される。また、PPARαの活性化は、HDLの主要構成タンパクであるApo A-Ⅰ、Apo A-Ⅱの産生を促進し、HDLを増加させる。

<陰イオン交換樹脂系>

消化管内で胆汁酸を吸着しそのまま体外へ排泄させてコレステロールを下げる。

<小腸トランスポーター阻害薬>

小腸にてコレステロール吸収に関わるタンパク質NPC1L1を阻害する。

<ニコチン酸系>

ホルモン感受性リパーゼの活性化を抑制することにより、末梢脂肪組織での脂肪分解を抑制し、遊離脂肪酸の肝臓への流入を減少させる結果、肝臓でのTGの合成を抑制する。

腸内細菌と動脈硬化性疾患の関係

近年、腸内細菌叢とさまざまな疾患との関連が明らかにされており、循環器疾患においても、その発症予測法への応用や治療標的として注目されています。循環器領域で最も有名な腸内細菌関連研究は、コリンやL-カルニチンの腸内細菌関連代謝物であるトリメチルアミン-N-オキシド(trimethylamine N-oxide;TMAO)に関するものです。卵、チーズ、肉などに含まれるコリンやL-カルニチンは腸内細菌の酵素によってトリメチルアミン(trimethylamine;TMA)となります。TMAは腸管から吸収され、肝臓のフラビン・モノオキシゲナーゼflavin-containing monooxygenases (FMOs)という酵素によって代謝されてTMAOとなります(下図)。TMAOは、血管内膜に遊走されたマクロファージの泡沫化を増加させることと、末梢から肝臓へのコレステロール逆転送系を抑制することで、動脈硬化の形成を促進するといわれています。さらに血小板凝集能を亢進させることにより不安定プラーク破綻の際の血栓性閉塞の可能性を上昇させ、心血管イベント増加に関与することが報告されています。これは、血中TMAO濃度の測定が、心血管イベントのリスクを知るうえでのバイオマーカーになることを示唆しています。

動脈硬化に関連するバイオマーカー

KPSLでは以下のような動脈硬化に関連する因子の分析受託サービスを提供しています。

 

バイオマーカー 機 能 等
酸化LDL 活性酸素などフリーラジカルの作用によって、LDL(低比重リポたんぱく)が酸化変性されたものを指します。酸化LDLはマクロファージにより貪食され、マクロファージの胞沫化を誘導し炎症の惹起や動脈の平滑筋増殖を引き起こすことで動脈硬化が進展します。血中酸化LDLは冠動脈疾患で上昇していること、脳血管障害や頚動脈病変と有意に相関することが報告されています。
炎症性サイトカイン(IL-6, IL-10, TNFα) 血管内膜に遊走したマクロファージはIL-6, IL-10, TNFαなどの炎症性サイトカインを分泌して平滑筋細胞を増殖・遊走させ、酸化LDLを取り込み泡沫細胞となり、動脈硬化性粥腫(プラーク)の形成に関与すると言われています。
ミエロペルオキシダーゼ  Myeloperoxidase (MPO)は好中球に多く含まれ、次亜塩素酸など強力な活性種を生成する酸化物質であり、LDL酸化を引き起こします。不安定プラークにおける好酸球の活性化、活性酸素の産生、MPOの細胞外放出などは、プラーク炎症部位の酸化ストレスを増強することが示唆されています。なお血中MPOは血清と血漿で濃度が大きくことなることが知られており、測定の際には材料の選定から考慮すべきバイオマーカーです。
可溶性CD40L  CD40Lは主にTリンパ球や血小板に発現し、Tリンパ球の免疫や炎症反応に関与し、平滑筋やマクロファージからのMMP分泌を促進します。また血小板の活性化により血中に放出される可溶性CD40Lは、プラーク不安定化に伴う血小板血栓形成を反映していると言われています。
CRP  C反応性蛋白(C-reactive protein;CRP)は主に肝臓で産生される分子量約120kDaの急性相反応物質で、局所的な血管炎症を反映します。この際に上昇するCRPは極めて微量であり、高感度な測定系による測定(高感度CRP)が必要です。プラーク形成には慢性局所炎症が関与していることから高感度CRPは急性冠症候群の重要な予測マーカーです。
MMP  マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)は単球や組織から分泌される細胞外マトリックスを分解する酵素の一種です。プラーク内の巨大化した泡沫細胞はMMP-2やMMP-9を分泌してプラークを不安定化させます。急性冠症候群の患者では血中MMP-9が高値であることが言われています。
PTX3  Pentraxin3 (PTX3/TSG-14)はCRP (C-reactive protein) やSAP(Serum amyloid P component)と同じPentraxinファミリーに分類され、体内の炎症により産生される炎症性蛋白の一つです。PTX3は血管内皮細胞などから産生され、血管の炎症を直接的に鋭敏に反映すると言われています。動脈硬化病変内のマクロファージや血管内皮細胞などがPTX3を産生することが知られています。
IGFBP7  IGF結合タンパク (IGFBP)はIGFと高い親和性で結合しIGFの輸送に関わるタンパクで、IGFBPファミリーは6種類存在します。最近、国立循環器病研究センターの研究で動脈硬化性大動脈瘤の平滑筋細胞や泡沫細胞などで、IGFBP7の産生が大きく亢進していること、また胸部大動脈瘤で手術を受けられた患者の血液でもIGFBP濃度が上昇していることが報告されました。
TMAO  ホスファチジルコリンが腸内細菌叢により代謝され生成したトリメチルアミンが、さらに肝臓内で酸化されたものがトリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)です。TMAOは動脈硬化を悪化させると言われており、TMAO濃度上昇が脳梗塞および心疾患リスクを増加させることが報告されています。

 

<参考文献>

Nature volume 472, p57–63 (2011)

Nature Medicine volume 19, p576–585 (2013)

J Am Coll Cardiol. VOL. 64,  NO. 18,  (2014)