膠原病

膠原病とは?

膠原病とは、何らかの自己免疫反応が働いた結果、皮膚・筋肉・関節・血管・骨・内臓などの結合組織に対して炎症や障害が生じる様々な疾患の総称です。本来、ウィルスや細菌などの異物を排除するための免疫システムが異常をきたし、自己の正常な細胞を異物とみなし攻撃することで起こります。

自己免疫疾患、リウマチ性疾患、結合組織疾患の3つの特徴を併せ持っています。

自己免疫反応が働く原因として、遺伝的な要因や紫外線・感染・ストレスなどの環境因子の関与が疑われていますが、多くの疾患で発症メカニズムや病態はまだ明確に解明されていません。

膠原病の治療薬

ほとんどの膠原病の治療には炎症と免疫を強力に抑えるステロイドが第一選択薬として用いられます。ただし副作用があるため、治療効果を持つ必要量のみ使用します。ステロイド以外の炎症や痛みを和らげる薬である非ステロイド性消抗炎症薬は、発熱や関節痛、筋肉痛などに効果があります。ステロイドの効果が十分でない時、副作用などでステロイドを早く減らしたい時には免疫抑制薬が用いられます。

 

<ステロイド(副腎皮質ホルモン)>

副腎皮質で産生されるステロイドホルモンの中で、主にグルココルチコイド活性を持つコルチゾールやその合成薬がステロイドとして用いられ、炎症性メディエーターなどの発現の抑制(抗炎症・免疫抑制)を目的として投与されます。そのため、効果が発現するまでには時間がかかります。また、その他のホルモン作用が過剰に発現するため、様々な副作用として現れます。

ステロイドの作用

<非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)>

NSAIDsはアラキドン酸カスケードにおいて、主要な酵素であるシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害し、プロスタグランジン類(PGs)の産生を抑制することによって、抗炎症作用、解熱・鎮痛作用を発揮します。

 

<免疫抑制剤>

免疫反応にかかわる白血球やリンパ球を抑え、異常な免疫反応を抑制する働きがあります。一方で、正常細胞への毒性も強いため副作用が問題となります。通常ステロイドと併用されることが多く、主にステロイドが効きにくい難治性病態や将来的に状態悪化が予想される症例に使用されます。

 

 

近年はこの他に、特定のサイトカイン(TNF-α、IL-6など)や分子のみを標的とした生物学的製剤が開発されています。生物学的製剤とは化学的に合成された化合物とは異なり、生物が産生する蛋白質などを医薬品として利用するものです。化合物とは異なり、特定の標的以外に反応しないことが特徴で、そのため標的とした分子のみを十分に制御することが可能となります。

自己免疫疾患と自己抗体

自己免疫疾患のほとんどで、自己抗原に対する抗体(自己抗体)が検出されることが知られています。

自己抗体には全ての組織の細胞に共通である成分を抗原とするもの(臓器非特異的)と特定の臓器に発現する抗原に反応するもの(臓器特異的)が存在し、膠原病は臓器非特異的な抗体です。自己免疫疾患の原因と考えられている抗体では、核成分のタンパクをターゲットとする抗核抗体が高頻度で出現します。細胞質の成分をターゲットとする自己抗体もあります。

 

自己抗体が病態にどのように関与しているのか不明な場合が多いですが、特定の疾患と関連が深い抗体が明らかになっており、スクリーニング・検査・診断に有用な場合があります。

自己抗体の種類

疾 患 名 主な自己抗体 疾患について
全身性強皮症(SSc) びまん型

抗トポイソメラーゼⅠ(抗Scl-70)抗体、抗RNAポリメラーゼ抗体

 

限局型

抗セントロメア抗体、抗Ku抗体

皮膚を始めとする全身の結合組織に硬化性病変をきたす疾患で、びまん型と限局型に分けられます。SScでは、約90%の症例が抗核抗体陽性となります。びまん型と限局型で検出される抗体が異なるので、病型の分類に有用です。
筋炎関連

 多発性筋炎(PM)  

 皮膚筋炎(DM)など

PM/DM特異的

抗ARS抗体である抗Jo-1抗体、抗PL-7抗体、抗PL-12 抗体、抗EJ抗体、抗OJ抗体など

DM特異的・・・抗Mi-2抗体

PM特異的・・・抗SRP抗体

PMは原発性の横紋筋の炎症疾患で、加えて皮膚症状のあるものをDMといいます。筋炎では自己抗体の種類が病型の分類や予後の推定に関連があると指摘されています。PM/DMに特異的な自己抗体としてアミノアシルtRNA合成酵素に対する抗ARS抗体があり、抗Jo-1抗体は特異性が高いと知られています。
抗核抗体・陽性率の高い疾患

 ・混合性結合組織病

 ・全身性エリテマトーデス

混合性結合組織病

抗U1-RNP抗体

 

全身性エリテマトーデス

抗dsDNA抗体、抗ssDNA抗体、抗DNA-ヒストン抗体、抗U1-RNP抗体

抗Sm抗体

混合性結合組織病(MCTD)

SLE、SSc、PM/DMの症状が混在する疾患です。

 

全身性エリテマトーデス(SLE)

遺伝的要因にホルモン異常などが誘因となって、多様な自己抗体が産生される、慢性炎症性疾患です。全身のあらゆる臓器に症状がみられます。

抗核抗体・陽性になることがある疾患

シェーグレン症候群(SjS)

抗SS-A抗体、抗SS-B抗体 唾液腺や涙腺の炎症により腺房が破壊され、分泌能が低下し、口腔内や眼の乾燥症状がみられる自己免疫疾患です。合併しやすい膠原病として関節リウマチやSLE, MCTD, SSc, PM/DM があります。

 

抗リン脂質抗体症候群(APS)と自己抗体

APSとはリン脂質またはリン脂質と結合した蛋白に対する抗体によって引き起こされる病態の総称です。

主な症状として、血栓症・妊娠合併症などがあります。APSには基礎疾患を伴わないもの(原発性APS)と伴うもの(続発性APS)があり、続発性APSはSLEを基礎疾患とする場合が多く、SLE患者の20~40%に合併しています。

自己免疫反応とサイトカイン

免疫細胞の活性化や機能抑制には、サイトカインと総称される生理活性蛋白質が重要な役割を担っています。自己免疫疾患にもサイトカインは深く関わってます。

分化したT細胞の放出するサイトカインとその免疫機能

自己免疫反応に関わるサイトカイン

膠原病ではさまざまなサイトカインの発現が亢進しています。

炎症性と抗炎症性のサイトカインのバランスが崩れると自己免疫疾患などを引き起こします。

関節リウマチには炎症性サイトカインであるTNF-α、IL-1、IL-6が深く関わっていることが知られています。

 

バイオマーカー 機 能 等
IL-1

<炎症>

主にマクロファージから産生される炎症性のサイトカインです。ヘルパーT細胞のIL-2の産生を誘導し、T細胞の分化・増殖を促進します。関節リウマチや強皮症などの自己免疫疾患に関与しています。
IL-2 T細胞によって産生され、T細胞増殖因子として知られています。T細胞やNK細胞の活性化、増殖、分化を誘導する免疫系の重要な調節因子です。関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどに関与しています。
IL-4 Th2細胞により産生され、Th2細胞への分化誘導やB細胞の増殖・分化、IgEの産生促進に関与します。Th1細胞およびマクロファージの機能を抑制し、IFN-γとIL-12の産生を抑制し、Th1細胞の分化を阻害します。またTh17細胞への分化の抑制にも関与しています。
IL-6

<炎症>

B細胞刺激因子として知られ、T細胞とマクロファージによって分泌される炎症性サイトカインです。炎症、老化、細胞成長、アポトーシス、骨の再構築などに関与しています。IL-6はTh-17細胞への分化を誘導します。関節リウマチなどの自己免疫疾患に関与しています。
IL-10

<抗炎症>

主にTh2細胞により産生され、Th1炎症誘発性応答を抑制し、食作用による取り込みを促進する多数のサイトカイン(IFN-γ, IL-2, IL-3,TNF-α,TNF-β,GM-CSF)の合成を阻害します。疾患特異性はないがSLEでは疾患活動性と呼応すると報告されています。
IL-12 B細胞やマクロファージにより産生され、T細胞やナチュラルキラー細胞の増殖の促進、Th1細胞の分化、Th1細胞へのIFN-γ産生誘導などに関与します。乾癬やクローン病など自己免疫が深く関わる疾患において、IL-12が増加することが知られています。
IL-17 Th17細胞より産生される炎症性サイトカインであり、繊維芽細胞や上皮細胞、マクロファージなど様々な細胞に作用し、炎症を誘導することが知られています。関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患に関与するとされています。
IL-21 Th17細胞により産生され、NK細胞を活性化し、T細胞・B細胞NK細胞の増殖や分化の促進をします。また、IFN-γ産生の誘導に関与しています。関節リウマチやコラーゲン誘発性関節炎などに関与しています。
IL-22 特にTh17細胞とNK細胞などから産生され、呼吸器・腸管・皮膚・肝臓などの上皮細胞に作用します。乾癬ではIL-22が著しく発現していることが知られています。また強皮や関節リウマチに関与するという報告もあります。
IL-23 樹状細胞やマクロファージより産生され、炎症反応の維持に重要な役割を果たすサイトカインです。Th17細胞への分化の誘導やIL-17の産生を促進に関与しています。コラーゲン誘導関節炎や乾癬、クローン病など自己免疫が深く関わる疾患において、IL-23が増加することが知られています。
IL-35

<抗炎症>

IL-12のサイトカインファミリーの1つで、制御性T細胞より産生されます。制御性T細胞の増殖を誘導し、Th17細胞の発達を抑制し、炎症を抑制します。自己免疫疾患の原因となる免疫応答を抑制する可能性があります。
TGF-β

<抗炎症>

抗炎症性のサイトカインで、リンパ球やマクロファージの機能抑制や線維芽細胞の増殖、組織修復に関与しています。疾患特異性はないが、全身性硬化症で高値を示すことが知られています。
IFN-γ 炎症系の代表的なTh1型のサイトカインです。Th1細胞によって産生され、マクロファージやNK細胞を活性化させます。またTh2分化を阻害します。ハンチントン病やC型肝炎など多くの疾患に関与しています。
TNF-α

<炎症>

マクロファージより産生され、IL-1, IL-6に並ぶ強力な炎症性サイトカインです。IL-1を刺激し、IL-12の産生を誘導するなど炎症反応のメディエーターとして全身に炎症反応を引き起こす一方、アポトーシス誘導なども知られています。関節リウマチの疾患活動性に相関して高値を示します。